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那覇地方裁判所 平成5年(ワ)248号 判決

那覇市牧志三丁目六番一〇号

原告

琉映株式会社

右代表者代表取締役

冝保俊夫

右訴訟代理人弁護士

冝保安浩

東京都千代田区霞ヶ関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

松浦功

右訴訟代理人弁護士

渡嘉敷唯正

右指定代理人

崎山英二

新垣栄八郎

林田雅隆

玉栄朋樹

阿波根昌治

長位裕行

郷間弘司

荒川政明

松田昌

古謝泰宏

主文

一  被告は、原告に対し、金五〇万円及びこれに対する平成五年二月二〇日から支払済みまで、年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二〇七〇万円及びうち金一〇〇〇万円に対し平成五年二月二〇日から、うち金四五〇万円に対し平成五年七月九日から、うち金四二〇万円に対し平成七年一月一七日から、各支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二事案の概要

一  事案の要旨

本件は、沖縄国税事務所の徴収職員がした原告の銀行に対する預金債権の差押えは超過差押えであって違法であり、また、那覇税務署長がした更正処分等は誤っており違法であるとし、これら被告の公務員が職務を執行するにあたってなした違法な行為により、合計金二〇七〇万円の損害を受けたとして、原告が被告に対して、国家賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実

1  原告は、映画の興業、不動産の売買、金融業等を営む会社である。

2(一)  原告は、別表一記載の土地(以下「本件土地」という。)と同土地上の別表二の区分所有建物(以下「本件区分所有建物」という。)を所有していたが、平成元年一一月一四日、右土地及び区分所有建物を株式会社大生産業(以下「大生産業」という。)に売却し、区分所有建物については平成三年一二月二〇日に、土地については平成四年九月二九日に、それぞれ、引渡しを完了したとして、当該引渡日の属する事業年度の収益に計上し、区分所有建物の売却による収益について、平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度の法人税の青色確定申告書及び法人臨時特別税の確定申告書に、別表三の「確定申告」欄のとおりに記載して、法定申告書期限までに申告した。

(二)  これに対し、那覇税務署長は、平成四年一二月二五日、本件土地及び区分所有建物は一体として取引されたものであるから、本件区分所有建物を譲渡した平成三年一二月二〇日に本件区分所有建物に対応する部分の土地も譲渡したと認められるとして、本件区分所有建物に対応する部分の土地の譲渡価額金三〇億一五四六万〇九六一円は、平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度の収益に計上すべきであるとして、別表三の「更正」欄及び「賦課決定」欄のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件更正処分等」という。)をした。

(三)  原告は、これを不服として、平成五年二月二五日、国税不服審判所長に対し、審査請求をした。

(四)  これに対し、国税不服審判所長は、那覇税務署長がした平成四年一二月二五日付の平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに平成四年一二月二五日付の平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度の法人臨時特別税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分は全部取り消すとの裁決をした(なお、弁論の全趣旨によると、那覇税務署長の本件更正処分等は、結論としては、誤ったものであることが認められる。)。

3(一)  ところで、那覇税務署の徴収職員は、平成五年二月五日、原告の従業員に電話をし、本件更正処分等にかかる別紙滞納金目録記載の国税(以下「滞納国税」をいう。)金一〇億一〇六三万三九〇〇円の納付について確認したところ、原告が委嘱した税理士鈴木通雄(以下「鈴木税理士」という。)と相談の上、納付したいとの返事であった。

(二)  沖縄国税事務所長は、平成五年二月一〇日、国税通則法四三条三項により、那覇税務署長から徴収の引継ぎを浮け、同月一二日、原告に対し、引受通知書を送付した。

(三)  沖縄国税事務所の徴収職員(以下「徴収職員」という。)である山城文雄総括主査(以下「山城総括主査」という。)は、平成五年二月一八日、原告の事務所に行き、原告冝保勝専務(以下「冝保専務」という。)及び鈴木税理士等と面接し、滞納国税の納付について原告の理解と協力を求めたが、冝保専務及び鈴木税理士は、納付する意思がないことを表明した。

(四)  そこで、同月一九日、徴収職員は、原告の取引銀行に行き、次のとおり、原告の銀行に対する預金債権を差し押さえた。

(1) 徴収職員の洲鎌勇一主査(以下「洲鎌主査」という。)及び同新垣友宏徴収官(以下「新垣徴収官」という。)は、同日午前一〇時ころ、株式会社琉球銀行(以下「琉球銀行」という。)県庁支店に行き、別紙差押債権目録(以下「差押債権目録」という。)番号1及び2の各預金債権を差し押さえた。

(2) 洲鎌主査と新垣徴収官は、琉球銀行本店に行き、差押債権目録番号21ないし24の各預金債権を差し押さえた。

(3) 徴収職員の棚原紀夫徴収官(以下「棚原徴収官」という。)及び同前里和俊徴収官(以下「前原徴収官」という。)は、株式会社沖縄銀行(以下「沖縄銀行」という。)牧志支店に行き、差押債権目録番号3ないし20の各預金債権を差し押さえた。

(4) 徴収職員の見里勝也徴収官(以下「見里徴収官」という。)は、沖縄銀行壷屋支店に行き、差押債権目録番号25の預金債権を差し押さえた。

(五)  同月二二日、新垣徴収官は、琉球銀行に対して、琉球銀行の原告に対する反対債権について参照し、同銀行本店の金三億円のみであることを確認し、また、棚原徴収官は、沖縄銀行牧志支店に対して、原告に対する反対債権について照会し、預金担保貸付金の残高が金一七億二〇〇〇万円、不動産担保による貸付金の残高が金一億五〇〇〇万円の合計金一八億七〇〇〇万円であることを確認し(なお、原告は、徴収職員は同月一九日には銀行の原告に対する反対債権の詳細を知っていた旨主張するが、これを証するに足りる証拠はない。)、沖縄国税事務所長は、差押債権目録番号18、21ないし24を除く各預金債権に対する差押えを解除した。

(六)  原告は、平成五年三月二日に滞納国税の全額を納付したので、沖縄国税事務所長は、同日、差押債権目録18、21ないし24の各預金債権の差押えを解除した。

三  争点

1  本件差押処分は適法か否か。

2  本件差押処分が違法であるとして、それによって原告に損害が発生したか、発生したならば、その額はいくらか。

3  本件において、誤った更正処分等をしたことにつき、那覇税務署長に故意又は過失があるか。

四  当事者の主張

1  争点1(本件差押処分の適法性)について

(一) 原告の主張

(1) 徴収職員としては、銀行預金債権を差し押さえるにつき、銀行において、反対債権があるか否か、担保に供されているか否かについても容易に知りうる。

(2) しかるに、徴収職員である洲鎌主査、棚原徴収官及び里見徴収官らは、平成五年二月一九日、その確認を怠り、滞納国税合計金一〇億一〇六三万三九〇〇円について、以下の預金債権を差し押さえた。

〈1〉 琉球銀行本店

定期預金四口(額面合計金八億円)(差押債権目録21ないし24)

〈2〉 沖縄銀行牧志支店

普通預金一口 (額面金一四〇一万一六四一円)(差押債権目録3)

定期預金一一口(額面合計金一六億九〇〇〇万円)(差押債権目録4ないし12、18及び19)

信託預金六口 (額面合計金一一億六〇〇〇万円)(差押債権目録13、17ないし20)

〈3〉 琉球銀行県庁支店

定期預金二口 (額面合計金三二五万三九七七ドル一二セント)(差押債権目録1及び2)

〈4〉 沖縄銀行壷屋支店

普通預金一口 (額面金四四六六万三五七〇円)(差押債権目録25)

(3) 原告が超過差押えであると抗議したところ、沖縄国税事務所長は、琉球銀行本店に対する定期預金四口(額面合計金八億円)(差押債権目録21ないし24)及び沖縄銀行牧志支店に対する定期預金一口(額面金四億円)(差押債権目録18)を除いて全ての差押えを解除したのであるから、差し押さえる必要があったのは、これらだけであった。

(4) また、琉球銀行における差押預金総額は金八億円及び金三二五万三九七七ドル一二セントであり、これらは反対債権がついておらず、また、沖縄銀行における差押預金総額金二八億五〇〇〇万円のうち担保に供されていない預金は金一二億八〇〇〇万円であったのであるから、いずれか一つの銀行のみに対する差押えで十分国税の徴収は可能であった。

(5) 国税徴収法(以下「国徴法」という。)四八条の超過差押禁止の規定は、不必要な超過差押えそのものを禁止しているのであって、一応超過差押えをしておいて、その差押債権のうちから、徴収職員の裁量により、どの債権から国税を取り立て、どの債権については差押えを解除するか等の選択権を与えたものではない。したがって、琉球銀行県庁支店の預金約四億円及び琉球銀行本店の預金八億円を差し押さえたことによって滞納国税が充足したのであるから、その時点で、他の預金は全て直ちに解除すべきであった。

(6) 以上により、本件差押処分は、国徴法四八条の超過差押禁止規定に反する違法な差押えである。

(二) 被告の主張

(1) 原告は、滞納国税につき、その納期限である平成五年一月二五日までに納付せず、同年二月四日に督促を受け、また、徴収職員から納税指導を受けたにもかかわらず、納付しなかったことから、原告が現金等の隠蔽を企てるおそれがあったので、国税債権保全の必要上、滞納国税の徴収の確実性を担保するため、本件差押処分をした。

(2) 国徴法四八条一項は、財産差押えの通則として、国税を徴収するために必要な財産以外の財産は差し押さえることができないとして、原則的に超過差押えを禁止しているが、債権の差押えについては、右の特則として、同法六三条が、滞納国税の額にかかわらず、全額差し押さえることを原則とし、徴収職員が全額差し押さえる必要がないと認めるときは一部を差し押さえることができると規定している。これは、債権の実質的な価値は、第三債務者の支払能力、第三債務者の滞納者に対する反対債権その他の抗弁権の有無等、種々の事情によって左右され、名目上の債権額からこれを把握することは困難であり、どれほどの債権額を差し押さえれば国税徴収に支障がないかを予め知りがたいという、他の種類の財産とは異なる債権特有の事情によるものである(なお、このようにしても、超過差押えが判明した時点で直ちに解除することもできるし、手続きが進行し取立ての段階で調整することも可能であるから、滞納者の権利利益を不当に侵害することにもならない。)したがって、差し押さえるべき債権の範囲をその一部とするか否かの決定は当該徴収職員の自由裁量行為というべきであるから、その裁量権の範囲である限り、それを違法とすることはできない。

右国徴法六三条は、直接的には、一個の債権の場合について規定したものであるが、この理は、本件のように、複数の債権が存在する場合についてもあてはまる。なぜなら、前記した債権特有の事情は、一個の債権の差押えの場合のみならず、複数の債権の差押えの場合にも当然あてはまるからである。

特に、銀行預金債権の場合は、銀行が原告に対して反対債権を有する場合、その反対債権を差押後に取得したものでない限り、銀行は、差押後であっても、被差押債権と反対債権とを相殺することができるので(最判昭和四五年六月二四日民集二四巻六号五八七頁)、銀行預金債権を差し押さえる場合に、銀行の反対債権を確認できないときは、その預金債権の実質的価値を把握することはできないから、預金債権全部を差し押さえざるを得ない。

したがって、一個の債権をどの範囲で差し押さえるかと同様、複数の債権をどの範囲で差し押さえるかは、徴収職員の自由裁量行為であって、その範囲の行為である限り、これを違法行為ということはできない。

(3) 本件についてみるに、本件の場合、原告が立体駐車場及び建物を建築中であり、その資金調達のため、被差押債権が国税に優先する債務の担保の目的となっていたり、銀行が原告に対して反対債権を有していたりすることが十分にあり得ると判断していたところ、銀行側の事情によって、預金を担保とした債権以外の反対債権の存在、差押えにかかる国税及びこれに先立つ他の国税、地方税その他の債権の合計金額を確認することができず、原告の預金債権の価値を正確に把握できなかった。そのため、一時的かつ結果的に超過差押えの状態が作出されたが、しかしながら、本件差押えにあたって、徴収職員は、反対債権の有無や預金が担保に供されているか否かを調査しており、預金が担保に供されているか否かを調査しないで差し押さえたとの違法はない。

なお、琉球銀行県庁支店で金四億円、沖縄銀行牧志支店で金二八億円を差し押さえていながら、琉球銀行本店で金八億円を差し押さえたのは、琉球銀行県庁支店の預金約四億円は外貨建のため投機的な性格があってその差押金額は不確定であり、かつ、超過差押えが分かった時点では優先的に解除することが予定されていたこと、沖縄銀行牧志支店の預金二八億円は、反対債権の預金が分からないため、その差押金額の評価は形式的には一応ゼロであること、沖縄銀行牧志支店の預金二八億円を差し押さえたのは午前一一時一〇分、琉球銀行本店の金八億円を差し押さえたのは午前一一時四〇分であり、琉球銀行本店の金八億円を差し押さえてその金額が判明する前に沖縄銀行牧志支店の担当職員は差押えを完了して引き上げていることがその理由である。本件のように数班に分かれて一斉に差押えを執行する場合には、各執行班の連絡調整が必ずしも的確に行えない事情があり、このような場合は、事務所に帰ってから差押えの維持、解除などの整理を所定の決済手続を経て行うのが通例であり、本件もそのように処理されている。

また、琉球銀行本店の金八億円を差し押さえた後、琉球銀行壷屋支店の金二億円を差し押さえて、沖縄銀行牧志支店の金二八億円を解除することをしなかったのは、沖縄銀行牧志支店の金二八億円は、形式的評価は一応ゼロであるが、ある程度のいわゆる歩留まりが予想できたことから、琉球銀行壷屋支店の金二億円を差し押さえることは超過差押えになるので避けたことがその理由である。

したがって、本件差押処分は、形式上は超過差押えにみえるものの、実質的にみれば、右のように、合理的な理由があったのであり、徴収職員の自由裁量の範囲内の行為であることは明らかである。

(4) また、かりに、差押えの時点で、一時的に超過差押えの状態にあったとしても、本件では、反対債権を確認した時点、すなわち、差押えの三日後には、直ちに超過部分に相当する預金債権の差押えを解除しており、それにより超過差押えの状態は解除され、違法性も治癒された。

(5) なお、本件差押えにおいて、徴収職員は、銀行各支店の預金債権及び反対債権をそれぞれの各支店において別々に調査確認しているが、原告は、そのことをとらえて、オンラインシステムの発達した今日において、徴収職員が反対債権の有無を確認する意思があったならば、それを利用して確認することは十分可能であったはずである旨主張するが、銀行は、他店扱いの取引内容については、守秘義務及び銀行内部の取扱いを理由として、これに応じないのが実情であり、かつ、本件では、沖縄銀行むつみ橋支店と牧志支店は合併した直後で業務が混乱しており、オンラインシステムも利用できない状況にあった。

(6) そもそも、国税の滞納処分は、大量かつ反復的に行われるものであるが、この中で前記のような抗弁権の存否を常に考慮しながら差押えを行わなければならず、しかも、かかる事実の有無を確認するのに時間がかかる場合もあるから、結果的に差押えが超過することもあり得る。

したがって、これが権限の濫用にあたると認められる場合を除き、超過差押えを直ちに違法とすることはできない。

2  争点2(本件差押処分による原告の損害の有無及びその額)について

(一) 原告の主張

原告は、本件差押えによって、事業資金である普通預金まで差し押さえられたため、社会的信用や営業上の信用を失墜させられた。また、無駄な時間と労力を費やして冝保専務及び鈴木税理士をして沖縄国税事務所まで赴かせて抗議を余儀なくさせた。

これによる損害は、会社の業種、資本、規模等からして、金一〇〇〇万円が相当である。

(二) 被告の主張

(1) 国税滞納処分として預金債権を差し押さえる場合は、手形小切手の支払口座となる当座預金については特別な場合を除いて差押えを控えるように留意しており、本件差押え処分にあたっても同様である。

一般的に、普通預金口座は手形小切手の支払口座には利用されていない上、本件において、銀行側からもそのような説明がなかったことから普通預金を差し押さえたものである。

(2) また、本件差押えが超過差押えになっているかどうかは、銀行職員は知らないから、超過差押えにより銀行職員に対して原告の信用を失墜させたということはなく、原告の信用の失墜という認識を与えたとすれば、それは、差押処分そのものによるのであって、原告の主張は理由がない。

(3) さらに、原告は法人であり、法人に対する慰謝料は、実損がある場合にそれを填補するものであるが、本件超過差押えにより原告にかかる損害は発生していない。

3  争点3(誤った更正処分等をしたことについての那覇税務署長の故意又は過失の有無)について

(一) 原告の主張

(1) 那覇税務署長は、大生産業に対して譲渡した本件土地及び区分所有建物は、一体として取引されたものであるから、本件区分所有建物を譲渡した平成三年一二月二〇日に本件区分所有建物に対応する土地も譲渡したと認められるとして、本件土地の一部譲渡にかかる収入金額金二三億二五二二万〇九六一円は、平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度の収益に計上すべきであるとして本件更正処分等をした。

(2)〈1〉 被告は、原告は本件土地及び区分所有建物の所有者であるが、本件区分所有建物がある建物(以下「国際ショッピングセンター」という。)は、法人税基本通達(以下「基本通達」という。)一三-一-六に定める「一団の土地を有する二以上の者が、当該一団の土地の上に建築された建物について区分所有する場合」に該当し、原告は、区分所有建物を購入したのではなく、自己の土地の上に自己の負担で建物を建築したものであり、当初から本件建物に対応する土地には借地権の設定はなかったとする。

〈2〉 右基本通達一三-一-六は、土地の高度利用の一形態として、隣接して土地を所有している二以上の土地所有者が、その二以上の土地を一個の敷地としてその上に共同で建物を建築した場合、その床面積と所有土地の比率が概ね等しいときは、形式的に借地権を想定してこれに課税するのは不合理であるとするものである。

〈3〉 本件における事実関係は、以下のとおりである。すなわち、沖縄信託株式会社(以下「沖縄信託」という。)は、原告他五名の土地所有者から土地を賃借し、同土地上に高層分譲ビルを建築する計画をした。そして、原告との間で、本件土地につき、賃料坪当たり一か月三ドル三〇セント、高層分譲ビル建築の目的で、賃貸借契約(以下「本件土地賃貸借契約」という。)を締結した。そして、沖縄信託は、建築主を合資会社大城物産、建物の用途を分譲店舗等として、那覇市役所建築主事の建築確認を得て、同土地上に、国際ビルショッピングセンターを建築し、区分所有建物を分譲した。そこで、原告は、そのうち、本件区分所有建物を取得した。本件分譲ビルの敷地の使用権限は貸借権であるため、各区分所有者は、その専有面積に応じて土地の賃料を沖縄信託(後日、国際ビル運営協議会に移管)に支払い、沖縄信託は、各土地所有者に対し、土地賃料を支払うこととなっていたので、原告は、土地所有者として国際ビル運営協議会から土地賃料を受け取り、他方、建物区分所有者として、右協議会に土地賃料を支払っていた。

〈4〉 このような事実関係からすれば、本件が基本通達一三-一-六に該当しないことは明らかである。

〈5〉 那覇税務署長は、原告が本件土地を沖縄信託に賃貸した経緯、沖縄信託が本件土地等の上に国際ショッピングセンターを建築してそれを分譲した経緯、国際ビル運営協議会が区分所有建物の所有者から土地の賃料を徴収してそれを土地所有者らに支払っていた事実等を検討すれば、容易に、このことを知りえた。

しかるに、那覇税務署長は、国際ショッピングセンターの建築主が誰であるか、国際ショッピングセンターの一九三個の区分所有建物の所有者が誰から分譲を受けたか、敷地利用権は賃借権か否か、国際ショッピングセンターの原告所有の本件土地について賃貸借契約が締結されているか否か、国際ショッピングセンターの敷地所有者が同敷地を賃貸しているか否かなどについて調査していない。

このように、那覇税務署長は、客観的な事実関係を掌握せず、右基本通達一三-一-六を歪曲した結果、誤った更正処分等をしたのであって、那覇税務署長に故意又は過失があったことは明らかである。

〈6〉 なお、被告は、本件が基本通達一三-一-六に該当すると判断した根拠として、原告の経理上の処理を挙げるが、会社の経理上の処理には誤りがある場合もあり、それだけでそのような認定をすることはできない。また、本件区分所有建物の登記簿謄本には借地権付建物としての表示がないというが、それは、本件区分所有建物が旧区分所有法当時に建築されたことによる。

(3)〈1〉 本件土地賃貸借契約に基づく保証金三〇万ドルは、第三者所有建物に対応する借地部分の保証金であるが、右三〇万ドルと本件区分所有建物の分譲価額とを相殺したことについて、被告は、これは、当時の時価相当額で等価交換を行ったものであるとする。

〈2〉 しかしながら、本件土地賃貸借契約書には、交換という表現は全くないし、そもそも、法人税法五〇条に定める等価交換は、建物と建物、土地と土地のように、同種の固定資産の交換が前提であって、借地権と建物との交換のような異種の固定資産の交換には適用されない。

〈3〉 これは、被告が、意味不明の「等価交換」なる文言を使用して事実関係を曲解したものである。

(4) さらに、被告は、原告が譲渡した本件土地の坪単価が賃借権の設定された土地の底地価額としては高額であるとするが、冝保秀子が譲渡した底地の単価が坪金八五〇万円、屋良枝美子が譲渡した底地の単価が坪金七〇〇万円であることと比較すれば、原告の土地の譲渡価額は相当であることは明白である。

(5) このように、被告は、本件に基本通達一三-一-六を適用したいがために、原告が自己の土地の上に自己の建物を建てているという誤った結論に達し、さらに、自己の土地に建物が建っている場合には、建物と土地は一体であるという独断に基づいて、建物を売って引き渡せば同時に土地を引き渡したことになるという誤った結論を導いている。

(6) 本件においては、国際ビル運営協議会が、原告に対し、本件土地の賃料を平成四年九月分まで支払っていたこと、平成四年九月二九日に土地所有権移転登記がされていること、土地の引渡時期については、売買契約書五条によれば、所有権移転登記手続及び売買代金授受の完了後と定められていることから判断すれば、基本通達二-一-一四及び同二-一-二に照らすと、本件土地の引渡日が平成四年九月二九日であることは明らかである。

(7) しかるに、被告は、基本通達一三-一-六を適用したり、本件土地と区分所有建物は一体であるとしたりして、これを平成三年一二月二〇日としており、これは、ことがらの経済的実体も法理的側面も全て無視したものである。

そもそも、憲法八四条が定める租税法律主義は、課税要件等を法定することにより、行政庁の恣意的な徴税を排除し、国民の財産的利益が侵害されないようにするためのものである。広く国民一般の財産権に侵害を及ぼすような課税手続において、それを執行する権限を有する公務員においては、国民の権利を不当に侵害しないように、事実関係を正確に調査し、法令等の適用についても恣意的に解釈しないように職務を執行する高度の注意義務がある。

しかるに、那覇税務署長は、事実調査を怠り、ことがらの実体を十分把握せず、不注意により誤った更正処分等をした。

(8) なお、原告は、昭和四五年一月二〇日に沖縄信託との間に締結した土地賃貸借契約に基づいて原告所有の土地に対して借地権を設定したことに伴う対価金三〇万ドルについて、当時の事業年度の決算報告書に預かり保証金として貸借対照表の負債の部に計上していたことに対し、沖縄国税事務所長は、昭和五九年五月の税務調査において、これは収益計上すべきであると指摘したのであるから、その際に、土地の取得価額から借地権相当額を控除すべきである旨指摘すべきであったのに、それをせず、原告が会計処理を知らないでそのままにしていたのを奇貨としてこれを更正処分等の理由にしているが、これは、課税するためのこじつけである。

また、被告は、本件土地賃貸借契約書の提出がなかったことが本件の最大の原因であるとするが、沖縄国税事務所長は、昭和五九年五月に原告の税務調査をした際に、本件土地賃貸借契約書を十分検討しており、それを知らないはずはない。かりに、沖縄国税事務所においてそれを紛失していたとしても、国際ショッピングセンターの他の土地所有者や国際ビル運営協議会等から事情を聴取すれば、本件土地賃貸宿契約の存在を容易に知り得たはずである。

(二) 被告の主張

(1) 国家賠償法(以下「国賠法」という。)における違法性について、裁判例の多くは、「一見明瞭な法解釈の誤りとか事実誤認をしたならば格別、そうでない場合には、事後、裁判所により、結果的に違法と判定されたとしても、それゆえに直ちに当該公務員に故意過失があったと推断することはできない。」と解している。国賠法一条一項の「違法」とは、公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することをいい、税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国賠法一条一項の違法があったとの評価を受けるものではなく、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正したと認め得るような事情がある場合に限り、違法の評価を受けるべきものである(最一小判平成五年三月一一日民集四七巻四号二八六二頁)

(2) そもそも、課税の対象となる経済取引について、税務職員はもともと第三者の立場にあって、その全容を十分認識することは困難である上、経済取引は多種多様であって、その課税要件該当性の適否を決するには相当微妙な判断が要求される。さればといって、「疑わしきは課税せず、納税者の利益に。」と安易に判断することは、無責任な行政態度として許されることではない。このような複雑かつ困難な判断を伴う税務行政の執行、特に、申告された税額を更正する処分をするにあたって、当該税務職員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正したなどということはあり得ない。

(3) 本件においては、以上のような事情があった。

〈1〉 原告の平成四年三月期の確定申告において、仮受金期末残高が金二三億九九〇〇万円余もあることから、その内容に疑問をもち、調査したところ、以下の事実が判明した。すなわち、

ア 原告は、本件土地に借地権を設定したとしていながら、当期まで本件土地の取得価額は金三三六九万一八二五円のまま繰り越されており、借地権相当額の減額がされていない。

イ 平成三年一二月二〇日に本件区分所有建物につき所有権移転登記手続がされた時点において、それまでに、本件区分所有建物の譲渡価額金九億三四九三万五〇〇〇円をはるかに超えて、譲渡価額合計金四七億四三八四万三〇〇〇円の約七〇パーセントに相当する金三三億円が既に支払われており、残金は約三〇パーセントに相当する金一四億四三八四万三〇〇〇円のみであった。

ウ 本件土地と本件区分所有建物の契約書は別々に作成されているが、契約年月日及び契約代金の決済条件等が全て同一の内容であり、かつ、代金支払の後半からは、土地代金と区分所有建物代金は、区別されずに、一体として支払われていた。

〈2〉 沖縄国税事務所では、本件課税に先立ち、事実関係を調査するため、原告側に面談調査を行っているが、その際に、原告は、原告と沖縄信託との間で締結された本件土地賃貸借契約書を提出しないなど、原告から十分な協力をしなかった(原告は、昭和五九年五月の沖縄国税事務所長による調査の際に、本件土地賃貸借契約を把握していたはずである旨の主張をするが、本件は、それより約八年経過していたこともあって、資料がなかったことに加え、原告の顧問であった鈴木税理士はそのような主張を全くしなかった。)。

〈3〉 原告は、以下のような経理処理をしている。すなわち、

ア 原告は、平成四年三月期の決算において、本件区分所有建物の譲渡につき固定資産売却益として、譲渡契約金額金九億三四九三万五〇〇〇円から本件区分所有建物簿価金一億一〇五七万六一四五円及び譲渡に要した経費金四一八三万六五一三円を控除した金七億八二五二万二三四二円を収益として計上している。かりに、譲渡金額金九億三四九三万五〇〇〇円が土地の賃借権価額を含むものであるならば、減価償却の対象となる区分所有建物の価額から借地権相当額を減額して、別途に借地権を資産計上すべきであるところ、かかる経理処理をしていなかった。

イ 原告は、平成三年三月期に、本件区分所有建物の譲渡価額金九億三四九三万五〇〇〇円を全額課税売上として申告しているが、かりに、本件区分所有建物の譲渡価額に土地の賃借権価額も含まれているとするならば、その相当額は、そこから除外すべきであるのに、除外していなかった。

ウ 原告は、平成四年三月期の法人税確定申告書において、区分所有建物と借地権相当額を区別することなく、単に、区分所有建物だけの売却益として処理していた。

〈4〉 本件区分所有建物の登記簿謄本には、借地権付建物としての表示がされていない。

〈5〉 沖縄国税事務所において、原告ら国際ショッピングセンターの敷地所有者の建物所有状況及び土地賃料の授受状況を調査したところ、別表四のとおり、敷地所有者は原告を含めて六名であり、そのうち、原告、合資会社幸地産業、玉城徳一及び合資会社球陽書房の四名が国際ショッピングセンターを区分所有し、高良安哲及び屋良枝美子の二名は土地のみを所有しているが、前記四名のうち原告以外の三名は、土地の賃料(以下「地代」ともいう。)を受け取ったり、支払ったりしておらず、また、土地のみを所有している二名は、土地の賃料のみを受け取っていた。原告は、土地所有者として土地の賃料を受け取り、また、区分所有建物所有者として土地の賃料を支払っていた。

那覇税務署長は、このような原告の経理処理状況、他の土地所有者の土地賃料の授受状況などの諸事情から、国際ショッピングセンターの土地建物と借地権との関係を別表五のように解釈した。すなわち、

ア 敷地所有者兼建物区分所有者である原告以外の三名は、基本通達一三-一-六の「各人の所有する部分の床面積の比が当該各人の所有地の価額の比又は面積の比とおおむね等しい」建物を区分取得したから、受取地代と支払地代が発生しなかったものであり、そうであるならば、右通達により、借地権の設定はなかったものと判断した。

イ これに対し、右三名と同様に敷地所有者兼建物区分所有者である原告には、受取地代も支払地代もあったが、原告は、建物全体面積の二五・七一パーセントを区分所有し、土地全体の六一・八六パーセントを所有していることから、右通達注意書の「所有する部分の床面積の比が所有地の面積の比と相当程度以上異なる場合」に該当するのではないかということが十分想定できたので、那覇税務署長は、本件土地を右通達注意所に沿って解釈し、別表五のとおり、本件土地を、借地権A及びB部分と底地C及びD部分に区分し、本件建物に対応する部分の借地権A部分については、他の三名と同様に借地権の設定はなく、借地権B部分については、右通達注意書部分に該当し、建物を区分取得した時点で借地権を設定したものと判断した。

ウ そして、底地部分と地代の授受の関係については、原告は底地D部分についてのみ地代を受領すればよいことになるが、底地D部分の地代を清算するのは面倒であり、また、区分建物所有者として地代を支払う代わりに敷地所有者として底地全体の地代を受領すれば、結果として底地D部分の地代を受領したことに変わりはないとしたものと理解した。

エ また、土地を所有しない建物区分所有者は、原告の借地権B部分と区分建物を取得しなかった二名の借地権部分を取得したと理解した。

以上のように、那覇税務署長は、本件課税時において把握していた資料の範囲内で、原告は区分所有建物を購入したのではなく、自己の土地上に自己の負担で建物を建築したものであり、当初から本件区分所有建物には借地権の設定はなかったものであり、本件区分所有建物は、基本通達一三-一-六に該当すると判断した。

(4) このように、本件課税処分は、調査を尽くし(沖縄国税事務所では、原告の調査に三名の担当職員を充て、約五か月にわたって調査をした。)、原告側と面談して、その説明と意見を聴取し、また、関連する会社、団体に対し、いわゆる反面調査をし、入手できた資料に基づき、慎重に検討した上でしたものであって、決して、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正されたものではなく、那覇税務署長には本件課税処分をするにつき何らの過失もなければ、もちろん、故意もない。

(5) 本件課税処分は、後に、国税不服審判所長の裁決により取り消されているが、これは、審査請求の段階にいたって、原告が、多くの資料を提供して積極的に主張立証した結果であって、沖縄国税事務所における調査の段階では必ずしも協力的とはいえない原告の調査に対する対応によってそのような資料を得ることができなかったのであるから、その事実だけをもって、直ちに、那覇税務署長の判断過程に過失があったとすることはできない。

(6) なお、原告の冝保専務は、平成四年一〇月八日、沖縄国税事務所の調査官に対し、「平成元年一一月一四日に契約した当時は、土地建物を一括して売るつもりであったが、買主側の代金決済が遅れたため、担保価値の低下した建物を先に譲渡し、売買代金の決済が完了するまでは、担保価値の高い土地を保有しておくことにした」旨述べ、一応譲渡したことを認めた。また、鈴木税理士は、平成四年一二月一六日付上申書において、「税務調査において土地の一部及び借地権部分は建物取引時において同時に収益に計上すべきとのご指導を受け、当会社もご指摘に沿った修正申告書を提出すべく検討中でございます」旨述べ、また、翌日には、電話で、「ショッピングセンターの土地と建物が一体であり、建物を売却した時点で土地も売却したものとみる国税の考え方に私としても異存はない」旨述べ、沖縄国税事務所長の考え方に同意する意思を伝えてきた。

(7) また、沖縄国税事務所では、審査請求があった段階では、前記土地賃貸借契約書を入手したが、前記の原告側の態度や意思表明があったことのほか、原告が土地賃貸借契約の対価として受領したとする金三〇万ドルは、第三者に分譲した借地権付建物の借地権の保証金であると考えられたこと、土地の引渡しの時点まで土地賃貸料を受領し続けていたことについては、まだ引渡しを終えていない第三者区分所有建物に対応する土地の賃貸料相当額又は売買代金の遅延損害金相当額と想定できたことから、那覇税務署長は、本件更正処分等を維持することとしたものである。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件差押の適法性)について

1  本件差押処分の時間的経過

前記争いのない事実等、原本の存在及び成立につき争いのない甲第一、第二、第三号証、第四号証の一、二、第五号証の一ないし三、証人仲程義弘、同棚原紀夫、同山城文雄の各証言によれば、以下の事実が認められる。

(一) 沖縄国税事務所長が、原告の滞納税額について、平成五年二月一九日に、原告の銀行預金債権を差し押さえるにあたり、玉城統括徴収官及び山城総括主査が連絡調整を担当し、洲鎌主査及び新垣徴収官が琉球銀行県庁支店及び同本店、棚原徴収官及び前里徴収官が沖縄銀行むつみ橋支店及び同牧志支店、見里徴収官が沖縄銀行壷屋支店及び琉球銀行壷屋支店の債権差押えをそれぞれ担当することとした。

(二) 洲鎌主査及び新垣徴収官は、平成五年五月一九日午前一〇時ころ、琉球銀行県庁支店に、また、棚原徴収官及び前里徴収官は、沖縄銀行むつみ橋支店に、それぞれ行った。

(三) 棚原徴収官及び前里徴収官は、沖縄銀行むつみ橋支店川上文男支店長代理から、原告は同支店の大口取引先であるが、同銀行内の支店間統廃合により、同支店は同銀行牧志支店に統合されるため、原告との取引資料は牧志支店に移管されており、ここでは端末機での照会内容しか分からないとの説明を受け、同日午前一〇時三〇分ころ、その旨を山城総括主査に報告し、沖縄銀行牧志支店に向かった。

(四) 徴収職員の見里徴収官は、同日午前一〇時二〇分ころ、沖縄銀行壷屋支店に行った。

(五) 洲鎌主査及び新垣徴収官は、琉球銀行県庁支店高山朝光次長立会いのもと、原告名義の預金を確認するとともに、同支店の原告に対する反対債権が不存在であることを確認し、同日午前一〇時三二分ころ、差押債権目録番号1及び2の各預金債権を差し押さえた。

(六) 見里徴収官は、沖縄銀行壷屋支店崎山旭次長立会いのもと、原告名義の普通預金を確認するとともに、反対債権のないことを確認し、同日午前一〇時四〇分ころ、差押債権目録番号25の預金債権を差し押さえた。

(七) 棚原徴収官及び前里徴収官は、沖縄銀行牧志支店に行き、同支店仲程義弘次長立会いのもと、原告名義の預金口座(普通預金口座二口、定期預金口座一一口、信託預金六口の預金総額金二八億六四〇一万一六四一円)を確認した。そして、両徴収官が同次長に対して反対債権の有無について説明を求めたところ、同次長から、原告に対する預金担保による貸付金は約金七億七〇〇〇万円であり、それ以外の一般貸付金等は同支店にはないが、同銀行むつみ橋支店の原告に対する貸付金については、事務を引き継いだばかりであって、同月二二日にしか判明しない旨の説明を受けた。

両徴収官は、その旨を山城総括主査に報告したところ、山城総括主査は、反対債権の確認が困難であることから、全額を差し押さえることを指示し、両徴収官は、同日午前一一時一〇分ころ、差押債権目録番号3ないし20の各預金債権を差し押さえた。

(八) 洲鎌主査と新垣徴収官は、琉球銀行本店に行き、同本店当間義孝事務課長立会いのもと、原告名義の預金口座六口(合計金一二億円)を確認するとともに、同本店の反対債権が金三億円存在し、また、右預金六口のうち、二口合計金四億円について質権が設定されていることを確認した。そして、調査書類の取引内容照会票の一般貸付欄に取引表示がついていたことから、他にも同銀行支店が反対債権を有することが予測されたので、同日午前一一時四三分ころ、とりあえず、同本店の反対債権(金三億円)の担保となっている二口の預金(合計金四億円)を除いて、差押債権目録番号21ないし24の各預金債権を差し押さえた。

2(一)  国徴法は、国税の滞納処分における財産の差押えに関する通則として、四八条一項で、国税を徴収するために必要な財産以外の財産は差し押さえることができないとして、超過差押えを禁止している。これは、本来、財産の差押えは、その強制換価により租税債権を満足させるために行われる手段であり、それが私人の財産権に対する重大な制限であることに鑑みると、それに必要な範囲に留められるべきことは当然であることによる。

他方、国徴法は、債権の差押えについては、四八条一項の特則として、六三条により、滞納国税の額にかかわらず、全額差押えを原則として、徴収職員が全額差押えの必要がないと認めるときは、一部差押えすることができるとしている。これは、債権の実質的な価値が、第三債務者の支払能力、第三債務者の滞納者に対する反対債権その他抗弁権の有無、その他種々の事情に左右されるものであって、名目上の債権額からこれを把握することが困難であり、どれほどの債権額を差し押さえれば国税徴収に支障がないかを予め知りがたいという他の種類の財産とは異なる債権特有の事情から、全額差押えを原則とし、ただ、徴収職員が差押債権の実質的な価値を把握し、一部差押えによって国税徴収に支障がなく、したがって、全額差押えの必要がないと認めた場合には、一部差押えをすることができることをも認めたものと解される。

以上によれば、国徴法六三条は、前記のような他の種類の財産とは異なる債権特有の事情から、それに対する差押えの場合に、特に例外的にその全部について差し押さえることを認めたものであるから、一つの債権の場合について、その全額を差し押さえることができることを認めたにとどまるものと解すべきであって、これを、債権が複数存在する場合についてまで、安易に拡張して適用することは、前記の国徴法四八条の趣旨を害することとなり、相当でない。したがって、被告が主張するように、複数の債権が存在する場合の差押えについて、この適用を認めることはできないというべきである。このように解することは、「『その債権の全額』を差し押さえなければならない」と規定する国徴法六三条の文言も素直な解釈といえる。

(二)  これを前提として、本件についてみるに、本件では、洲鎌主査及び新垣徴収官が琉球銀行県庁支店において差押債権目録番号1及び2の各預金債権を、また、見里徴収官が沖縄銀行壷屋支店において差押債権目録番号25の預金債権を、それぞれ差し押さえ、その合計額は約金四億四〇〇〇万円であったのであるから、残り約金六億円を差し押さえれば足りたにもかかわらず、その後、棚原徴収官及び前里徴収官は、沖縄銀行牧志支店において、その四倍以上に相当する差押債権目録番号3ないし20の各預金債権(合計約金二八億円)の全てを差し押さえており、その超過額は著しく過大であって、これが国徴法四八条が禁止する超過差押えであることは明らかであり、違法といわざるを得ない。

なお、被告は、沖縄銀行むつみ橋支店と牧志支店の統合に伴う混乱のため、反対債権額が確認できなかったことを棚原徴収官及び前原徴収官が沖縄銀行牧志支店において差押債権目録番号3ないし20の各預金債権(合計約金二八億円)の全てを差し押さえたことの理由とするが、沖縄国税事務所長とすれば、あらかじめ、支店の統合など第三債務者の状況等を調査することは可能だったのであるから、これを理由とすることはできないというべきである。

(三)  なお、かりに、被告が主張するように、国徴法六三条の趣旨が、本件のように複数の債権が存在する場合の差押えの方法についてもあてはまるとしても、本件の場合、洲鎌主査と新垣徴収官が、琉球銀行本店において、差押債権目録番号21ないし24の各預金債権を差し押さえた段階では、すでに、洲鎌主査及び新垣徴収官が琉球銀行県庁支店において差押債権目録番号1及び2の各預金債権を、また、見里徴収官が沖縄銀行壷屋支店において差押債権目録番号25の預金債権を、それぞれ、差し押さえており、これらの債権の合計金額は、約一二億円であって、滞納国税額(金一〇億一〇六三万三九〇〇円)を上回っていたのであるから、この時点で、直ちに、棚原徴収官及び前原徴収官が沖縄銀行牧志支店において差し押さえていた差押債権目録番号3ないし20の各預金債権に対する差押えを解除すべきであったのに、これをしなかった点で、やはり違法と言わざるを得ない。

被告は、洲鎌主査及び新垣徴収官が琉球銀行県庁支店において差し押さえた差押債権目録番号1及び2の各預金債権は、外貨建のため、投機的な性格があり、その差押金額は不確定金額であり、かつ、超過差押えが分かった時点で優先的に解除することが予定されていたことを理由として、棚原徴収官及び前里徴収官が沖縄銀行牧志支店において差し押さえた差押債権目録番号3ないし20の各預金債権の差押えを維持する必要があった旨主張する。しかしながら、外貨建の場合、相場により多少の変動はあるとしても、超過差押えを許容する程度にまで金額が不確定であるということはできないし、また、投機的性格があるから優先的に解除することが予定されていたとする点も、そもそも、国徴法は、超過差押えを原則として禁止しており、徴収職員に対して、一応超過差押えをしておき、その中から、差押えを維持する債権と解除する債権を選択することを認めていないのであるから、被告のこの主張は採用しえない。

また、被告は、琉球銀行本店で金八億円を差し押さえてこの金額が判明する前に、沖縄銀行牧志支店の担当職員は差押えを完了して引き上げているなど、本件のように、数班に分かれて一斉に差押えを執行する場合は、各班の連絡調整が必ずしも的確に行えない事情があるから、このような場合、事務所に帰ってから差押えの維持、解除などの整理を行うのが通例であるとする。しかしながら、このように、数班に分かれて、異なる第三債務者に対して差押えをする場合は、連絡不十分を原因として、超過差押えとなる危険が大きくなるのであるから、むしろ、そうならないように細心の注意と頻繁な連絡調整を図るべきであり、本件の場合も、沖縄国税事務所内に玉城統括徴収官又は山城総括主査が待機していたのであるから、徴収職員と頻繁に連絡を取り合えば、琉球銀行本店で金八億円を差し押さえた旨の報告を受けた段階で、直ちに、沖縄銀行牧志支店に差押えの解除をするために向かわせることは可能であったと言えるから、被告のこの主張も採用しえない。

3(一)  なお、被告は、差押えの時点で一時的に超過差押えの状態にあったとしても、反対債権を確認した時点で速やかに超過部分に相当する預金の差押えを解除したことにより、超過差押状態は解消され違法性も治癒されている旨主張する。

しかしながら、このように考えると、後に解除すれば、いかなる違法な超過差押えも、その違法性が治癒されることとなり、超過差押えを禁止した国徴法四八条の趣旨を害することとなるから相当ではない。

(二)  被告が指摘する山口地判昭和三四年三月二三日(下民集一〇巻三号五三八頁)は、数個の不動産に対する差押えが全体としては違法と解せられる場合においても、その一部の公売によって滞納税額を満足することが判明したため、他の部分の差押えが解除されたときは、右公売された一部の不動産に対する差押えに関する限り、右違法は治癒せられるものと解するのが相当であるとし、その一部の不動産の公売によって損害を被った旨主張した原告の主張を排斥したものであって、本件のように、原告が、超過差押全体についてその違法を問題としたものではなく、事案を異にしており、本件には参考とならない。

二  争点2(本件差押処分による原告の損害の有無及びその額)について

前記したとおり、原告に対する本件差押処分は、超過差押えであり、被告の公権力に当たる公務員が、その職務を行うについて、少なくとも過失によりした違法な処分である。

そして、本件差押処分により、本来差し押さえられるべき金額の約四倍もの金額の預金債権に対する差押えをしており、証人仲程義弘の証言によれば、担当銀行員を通じて、取引銀行に対する原告の信用を失わせたことは明らかである。

他方、原告は、当時、滞納国税合計金一〇億一〇六三万三九〇〇円については、差し押さえられるべき立場にあったことをも考慮すれば、本件超過差押えを原因として信用が害されたことによる原告の無形的損害は、金五〇万円と認めるのが相当である。

三  争点3(誤った更正処分等をしたことについての那覇税務署長の故意又は過失の有無)について

1  成立に争いのない甲第七、第一五、第一六号証、乙第四ないし第六、第八号証、原本の存在及び成立につき争いのない乙第七号証の一ないし四、証人入江啓四郎、同鈴木通雄の各証言に弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる(この認定に反する証人鈴木通雄の証言部分は採用しない。)。

(一) 沖縄国税事務所の入江啓四郎主査(以下「入江主査」という。)は、原告の平成四年三月期の確定申告書を検討したところ、仮受金期末残高が金二三億九九〇〇万円余もあり、この内訳明細書も添付されていなかったことから、その内容に疑問をもち、平成四年八月ころから、上原俊則調査官(以下「上原調査官」という。)らと共に、原告に対する調査を開始した。

(二) まず、上原調査官は、平成四年八月、九月に合計して五、六回、原告に対する臨場調査をした。

その後、入江主査は、まず、平成四年一〇月八日に、上原調査官と共に、冝保専務と面談し、前記仮受金の内容を尋ねたところ、冝保専務は、「本件土地の代金の一部である。本件区分所有建物は平成三年一二月に、本件土地は平成四年九月に引き渡すことになった。区分所有建物は引渡済みであるが、土地はまだ引き渡していないので、仮受金のままである。」旨答えた。また、その際、入江主査が、「借地権についてはどうなっているか。」と尋ねたところ、冝保専務は、「そのような専門的なことはよく知らない。」と答えた。

つぎに、入江主査は、平成四年一〇月二六日に、上原調査官らと共に、原告の冝保俊夫社長(以下「冝保社長」という。)及び鈴木税理士と面談したところ、冝保社長は、「国際ショッピングセンターを建てたとき、借地権の権利金をもらい、それにいくらかの金を払って国際ショッピングセンターの建物を買ったので、当初から借地権はあった。」旨述べた(なお、この権利金とは、昭和四六年ころに原告が借地権の対価として取得した約三〇万ドルのことであり、これについては、沖縄国税事務所長は、昭和五八年度の税務調査の際に、土地の対価であるので収益に計上すべきである旨の指摘をし、鈴木税理士に対して原告に納税を勧あるようにと言ったが、原告は、琉球政府時代の法人税法において借地権課税は明確にされていなかったこと及びすでに時効が成立していることを理由に、これを納税しなかった。)。

そこで、入江主査は、契約書など土地賃貸借契約の存在を裏付ける書類があるかと考え、「その当時の書類はあるか。」と尋ねたところ、冝保社長は、「そんな古い書類はない。」と答えた。

なお、この際、入江主査は、原告が支払ったとしていた仲介手数料について、いわゆる「かぶり屋」(裏金捻出のため、領収証の額面の一、二割を取得して、領収証を発行する者)が存在しているのではないかとの疑いがあったので、「領収証に問題がある。」と言い、冝保社長に確認した。すると、冝保社長は、仲介業者らを呼びだし、右仲介業者らは、沖縄国税事務所の調査官に対して言っていたことを全て否定した。そこで、那覇税務署長は、これでは右疑いは維持できないとして、更正処分をせず、仲介業者らに対して課税することとした。

(三) また、入江主査は、照屋総業、琉球エステイト、アオイ企画及び国際ビル運営協議会に対し、いわゆる反面調査をした。

まず、国際ビル運営協議会に対する反面調査の結果、別表四のとおり、国際ショッピングセンターの敷地所有者は、原告を含めて六名であること、そのうち、原告、合資会社幸地産業、玉城徳一及び合資会社球陽堂書房の四名が、国際ショッピングセンターを区分所有し、高良安哲及び屋良枝美子の二名は土地のみを所有していること、前記四名のうち、原告以外の三名は、土地の賃料を受け取ったり、支払ったりしていないこと、土地のみを所有している二名は、土地の賃料を受け取っていること、原告は、土地所有者として土地の賃料を受け取り、また、区分所有建物所有者として土地の賃料を支払っていることが判明した。

また、照屋総業、琉球エステイトに対する反面調査の結果、照屋総業、琉球エステイト及びアオイ企画は、国際ショッピングセンターの土地については七割、建物については一階と地下部分を除いて全て買い上げていることが判明し、入江主査は、これらが土地と建物を区分せず、一体として買っていることや新聞記事(前掲乙第八号証)から、これらが、国際ショッピングセンターを中心に再開発(いわゆる地上げ)をしようとしており、したがって、土地が主たる目的であると考えた。

(四) このほか、入江主査は、原告と大生産業との間の不動産売買契約書(前掲甲第一五、第一六号証)、原告の現金出納帳(前掲乙第七号証の一ないし四)及び不動産登記簿謄本などを入手して検討した結果、

(1) 本件土地の契約書と本件区分所有建物の契約書は、別々に作成されているものの、契約年月日(平成元年一一月一四日)、当事者(売主原告、買主大生産業)及び代金の決済条件(決済日平成二年一一月三〇日、引渡期日売買代金授受の完了後)等が全て同一の内容であること

(2) 現金出納帳によると、手付金については、本件土地と本件区分所有建物とで区分されているものの、代金支払の二回目以降は、区別されずに、「国際ショッピングセンター土地建物譲渡代金の一部」と、一括して記帳されていること

(3) 平成元年一一月一四日から本件区分所有建物につき所有権移転登記手続がされた平成三年一二月二〇日までに、金三三億円が既に支払われており(これは、本件区分所有建物の譲渡価額金九億三四九三万五〇〇〇円をはるかに超え、本件土地と本件区分所有建物の譲渡価額の合計金四七億四三八四万三〇〇〇円の約七〇パーセントに相当する。)、残金は本件土地と本件区分所有建物の譲渡価額の合計の約三〇パーセントに相当する金一四億四三八四万三〇〇〇円のみであること

(4) 原告は、本件土地に借地権を設定したとしていながら、〈1〉平成四年三月期まで本件土地の取得価額は金三三六九万一八二五円のまま繰り越しており、借地権相当額の減額をしていない、〈2〉平成四年三月期の決算において、本件区分所有建物の譲渡につき、固定資産売却益として、譲渡金額から簿価及び譲渡に要した経費を控除した額を収益として計上しており、減価償却の対象となる区分所有建物の価額から借地権相当額を減額し、別途に借地権を資産計上する経理処理をしていない、〈3〉平成三年三月期に、本件区分所有建物の譲渡価額を全額課税売上として申告しており、借地権相当額を除外していない、〈4〉平成四年三月期の法人税確定申告書において、区分所有建物と借地権相当額を区分することなく、単に、区分所有建物だけの売却益として処理しているなど、借地権がないことを前提とした会計処理をしていること

が判明した。

(五) 以下の調査の結果、那覇税務署長は、国際ショッピングセンターの土地及び区分所有建物と借地権との関係について、別表五のように、

(1) 土地所有者兼建物区分所有者である四名のうち、原告以外の三名は、基本通達一三-一-六の「各人の所有する部分の床面積の比が当該各人の所有地の面積の比又は価額の比とおおむね等しい」建物を区分取得したため、受取地代及び支払地代が発生しなかったものであり、右通達により、借地権の設定はなかった

(2) これに対し、右三名と同様に敷地所有者兼建物区分所有者である原告には、受取地代及び支払地代があったが、原告は、建物全体面積の二五・七一パーセントを区分所有し、土地全体の六一・八六パーセントを所有していることから、右通達注意書の「所有する部分の床面積の比が所有地の面積の比と相当程度以上異なる場合」に該当するとし、本件土地を借地権A及びB部分と底地C及びD部分に区分し、本件区分所有建物に対応する部分の借地権A部分には、他の三名と同様に借地権の設定はなく、借地権B部分は、右通達注意書部分に該当し、建物を区分取得した時点で借地権を設定した

(3) 底地部分と地代の授受の関係については、原告は底地D部分についてのみ地代を受領すればよいことになるが、底地D部分の地代を算出するのは面倒であり、また、区分建物所有者として地代を支払う代わりに敷地所有者として底地全体の地代を受領すれば、結果として底地D部分の地代を受領したことに変わりはないとした

(4) 土地を所有していない建物区分所有者は、原告の借地権B部分と区分所有建物を取得しなかった二名の借地権部分を取得した

と解釈し、原告は、区分所有建物を購入したのではなく、自己の土地上に自己の負担で建物を建築したものであり、当初から本件区分所有建物には借地権の設定でなく、よって、本件区分所有建物は、基本通達一三-一-六に該当すると判断した。

そこで、那覇税務署長は、原告は、大生産業に対し、本件区分所有建物の引渡日である平成三年一二月二〇日に、本件区分所有建物のほか、それに対応する本件土地の一部(別表五の土地C部分)を一括して譲渡したと判断した。

そして、これに基づき、那覇税務署長は、平成四年一二月二五日に、本件更正処分等をした。

(六) その後、鈴木税理士は、平成五年一月五日に、沖縄国税事務所に対し、本件土地賃貸借契約書を持参したが、那覇税務署長は、本件賃貸借契約書が提出されたのが本件更正処分等をした後であることや、第三者機関である国税不服審判所長の判断に委ねた方がよいと判断したことから、本件更正処分等を取り消して減額再更正処分をすることはしなかった。

(七) なお、鈴木税理士は、平成四年一二月一六日付上申書に、「税務調査において、土地の一部及び借地権部分は建物引渡時において同時に収益に計上すべきとのご指摘を受け、当社もご指摘に沿った修正申告書を提出すべく検討中でございます。」と記し、翌日には、電話で、「ショッピングセンターの土地と建物が(他の借地権に係る底地部分は除く。)一体であり、建物を売却した時点で土地も売却したものとみる国税の考え方は、私としても異存はない。」と述べた。

2(一)  国賠法一条は、違法な処分によって他人に損害を加えたとき、それにあたった公務員に故意又は過失があった場合には、国は賠償責任を負うとしており、ここで故意とは、違法行為であることを知りながら行うことであり、過失とは、そのことを当然知り得べくして不注意により知らないことをいうが、単に違法な行政処分をしたということ自体から、直ちに、当該公務員に故意又は過失があったものと判断すべきではない。

なぜなら、行政処分は、法令に適合してされることが要求され、当該処分に当たる公務員としては、関係法規の解釈を誤らないことが要求されるが、行政法規の解釈は、必ずしも容易ではなく、ことがらの内容によっては種々の解釈を生じる場合もあり得るのであり、とりわけ、税務行政の場合は、課税の対象となる経済取引については、税務職員は、もともと第三者の立場であって、ことがらの全容を十分認識することは困難である上、経済取引は多種多様であって、その課税要件該当性の適否を決するには、微妙な判断が要求されることが多いからである。

したがって、当該公務員が、職務上要求される通常の法律知識及び経験則に従って認定、判断してした処分が、たとえ、事後に国税不服審判所あるいは裁判所において違法と判断されたとしても、一見明瞭に法律解釈を誤っていたり、事実誤認をしたのであるならば格別、そうでない場合には、そのことから直ちに、当該違法行為が故意又は過失に基づくものということはできないというべきである。

(二)(1)  以上を前提にして、前記認定した事実をみるに、本件においては、本件土地の契約書と本件区分所有建物の契約書は、別々に作成されているものの、契約年月日(平成元年一一月一四日)、当事者(売主原告、買主大生産業)及び代金の決済条件(決済日平成二年一一月三〇日、引渡期日売買代金授受の完了後)等が全て同一の内容であること、現金出納帳には、手付金については、本件土地と本件区分所有建物とで区分されているものの、代金支払の二回目以降は、区分されずに、「国際ショッピングセンター土地建物譲渡代金の一部」と、一括して記帳されていること、平成元年一一月一四日から本件区分所有建物につき所有権移転登記手続がされた平成三年一二月二〇日までに、本件区分所有建物の譲渡価格をはるかに超えて、本件土地と本件区分所有建物の譲渡価額の合計金の約七一パーセントに相当する金三三億円がすでに支払われていること、国際ショッピングセンターの敷地所有者は、原告を含めて六名であるが、そのうち、区分所有建物所有者でもある四名のうち、原告を除いては、地代の授受がなかったこと、原告は、本件土地に借地権を設定したとしていながら、平成四年三月期まで本件土地の取得価額は金三三六九万一八二五円のまま繰り越し、借地権相当額の減額をしていないなど、借地権がないことを前提とした会計処理をしていること、本件更正処分等に至るまで、原告から、本件土地賃貸借契約書の提出がなかったこと、いわゆる反面調査により、照屋総業、琉球エステイトらが、国際ショッピングセンターを中心に再開発(いわゆる地上げ)をしようとしており、したがって、国際ショッピングセンターの土地建物の売買取引の目的は土地にあると考えられたこと、以上の事情が認められ、これによれば、原告と大生産業との間では、本件区分所有建物と本件土地は一括して売買されたものであると認定し、そして、本件区分所有建物の引渡しがあった時点で、本件区分所有建物とそれに対応する本件土地の一部の引渡しがあったとすることも、あながち不合理なものとはいえない。

(2) たしかに、土地と建物とは別個の不動産であり、したがって、一般に、区分所有建物と右建物を含む一棟の建物の敷地の一部を同一人が所有している場合、借地権の負担付の土地と借地権付の区分所有建物とを所有しているのが通常であり、また、基本通達一三-一-六が適用されるめには、「一団の土地の区域内に土地を有する二以上の者が、当該一団の土地の上に共同で建物を建築」することが要件であるところ、前掲甲第七号証によると、国際ショッピングセンターの敷地所有者は共同で国際ショッピングセンターを建築したものではないから、この要件に該当せず、したがって、原告所有の本件区分所有建物について右通達を適用したことは誤りである。

しかしながら、本件の場合、証人入江啓四郎の証言によると、那覇税務署長は、まず、前記三1の各事情に基づいて、前記内容の認定をしたものであり、その上で、基本通達一三-一-六の適用が可能であると判断して、これを根拠規定としたものにすぎないことが認められ、しかも、本件の場合、国際ショッピングセンターの敷地所有者兼区分所有建物所有者である四名のうち、原告を除いては、地代の授受がないことから、基本通達一三-一-六により借地権の設定がないものと考えられ、また、地代の授受があった原告についても、建物全体面積の二五・七一パーセントを区分所有し、土地全体の六一・八六パーセントを所有していることから、右通達の注意書(「各人の所有する部分の床面積の比が当該各人の所有地の面積の比又は価額の比と相当程度以上異なる場合には、その差に対応する部分の土地につき借地権の設定があったものとして取り扱う。」)の場合に該当し、別表五のとおり、本件土地を借地権A及びB部分と底地C及びD部分に区分し、本件区分所有建物に対応する部分の借地権A部分には、他の三名と同様に借地権の設定はなく、また、借地権B部分は、右通達の注意書部分に該当し、建物を区分取得した時点で借地権を設定したが、その地代は、区分所有建物所有者として地代を支払う代わりに敷地所有者として底地全体の地代を受領したものとなると解釈し得ないものでもない。

したがって、本件更正処分等の当時において明らかになっていた資料から認められる前記三1の事情に基づいて判断するならば、那覇税務署長がした前記内容の判断は、少なくとも、一応の合理性を有するものとして理解しうるものであり、一見明瞭に法律解釈を誤っていたり、事実誤認をしたものとまでは言えない。

そして、前記認定のように、本件においては、原告に対する調査のために、沖縄国税事務所の三名の担当職員が、約五か月にわたり、原告側との面接調査、関連する団体等に対するいわゆる反面調査等をし、それにより入手できた資料に基づき、慎重に検討した上で本件更正処分等がされており、那覇税務署長がその職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件更正処分等をしたとはいえず、那覇税務署長に過失があったということはできない。

(3) なお、本件更正処分等が、後に沖縄国税不服審判所長による裁決によって取り消されたことは、前記争いのない事実等に記載のとおりであるが、前記三1で認定した事実によれば、右のように沖縄国税不服審判所長によって取り消されたのは、審査請求の段階にいたって、原告が本件土地の賃貸借契約の存在の裏付けとなる本件土地賃貸借契約書等を提出して説明した結果などによることが認められるところ、沖縄国税事務所長による調査段階では、前記のように、右土地賃貸借契約書を提出しないなど、原告の非協力的ともいえる態度により、かかる資料を得ることができなかったのであるから(なお、原告は、昭和五九年五月の沖縄国税事務所長による調査の際に、本件土地賃貸借契約は把握していたはずである旨主張するが、本件は、それとは別件であり、かつ、それより約八年経過していたことに鑑みると、沖縄国税事務所長にその調査の結果の保管及びその調査等を要求することは酷であり、原告側が保管しかつ提出すべきものであって、沖縄国税事務所長がそれを保管等していなかったことに責任はない。)、本件更正処分等が沖縄国税不服審判所長の裁決により取り消されたことをもって、直ちに、那覇税務署長の本件更正処分等に過失があったとすることはできない。

(4) また、本件更正処分等の後に原告から本件土地賃貸借契約書が提出された後にも那覇税務署長が本件更正処分等を取り消して再更正決定をせずに本件更正処分等を維持しているが、前記のように、本件更正処分等の適否の判断には微妙なものであったことなどからすれば、この点につき過失があったとすることもできない。

第四結論

以上のように、原告の本訴請求は、被告に対し金五〇万円及びこれに対する不法行為の日の翌日である平成五年二月二〇日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容することとし、その余の部分は理由がないからこを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文を適用し、仮執行宣言については事案の内容から相当と思われないのでこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲葉耶季 裁判官 近藤昌昭 裁判官 平塚浩司)

別表一

本件土地

〈省略〉

別表二

本件建物

〈省略〉

別表三

確定申告額及び課税処分額

〈省略〉

別表四 敷地所有者の建物所有状況と地代の授受状況

〈省略〉

別表五 区分所有建物と借地権の関係

〈省略〉

別紙

〈省略〉

差押債権目録

〈省略〉

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